デュワー真空・冷却テスト 1
May 19-24, 2002 Nishimura, Omata, Tokoku
May 31, 2002 update
May 25, 2002 reported by tokoku
□ 実験
もあくすデュワー全体が組み上がったので、以下の3つの実験を行った。
(組み上げレポートはこちら。)
1、真空引きテスト
2、リークテスト
3、冷却テスト
組み込んだものは以下の通り。
図1 全体像(横から、前から)
1)本体デュワー
(オクタゴン1、オクタゴン2、ファット、オクタゴン3)
2)MOS部
(焦点面デュワー、ゲートバルブ、スロート部、カルッセルデュワー、直線導入器)
3)検出器デュワー
4)光学ベンチ+サポートプレート(G10で吊した状態)
5)冷凍機2台
(うち、検出器デュワーについている1台は、光学ベンチに熱パスをつないだ)
1、真空テスト
常温で真空引きを行った。
真空装置として機能するか(明らかに真空がもれる箇所がないか、壁がへこむよう
なところはないか)というチェックが目的。
2、リークテスト
ヘリウムを使ったリークテストを行った。テストには、VARIAN 956 (Portable
Turbo Leak Detector) を使用した。配管は図1の通り。
図2 ヘリウム・リークテスト
3、冷却テスト
真空度が2.5×10-3Torr 程度までいったところで、冷凍機をつけて
冷却実験を行った。中の光学ベンチに冷却パスがつないである。
今回の冷却テストでは、光学ベンチがだいたいどのくらいの速度で冷えるかを
簡単にチェックするのが目的。
冷却パスは、厚さ0.1mm、幅50mm、長さ約320mmの銅のストラップを5枚用意して、
冷凍機第一段(コールドヘッド)と光学ベンチをつないだ。
この熱パスの熱移動量を計算すると、5枚で約8.2Wとなる。冷凍機のパワー80Wに
比べるとはるかに熱伝導能力が小さいが、これで冷えるだろうか...?
Aは熱パスの断面積[m2]、Lは長さ[m]、kは熱伝導率[W/m/K]、Tは温度差[K]。
k=403[W/m/K]、T=300-40=260[K]を使用。銅の熱電導率kは材質(まざりもの)の
種類によって1/4程小さくなることもあるので注意(今回使った銅の正体は不明)。
温度測定点は、冷凍機第一段(コールドヘッド)と光学ベンチ(カメラレンズの
あたり)の2ヶ所。いずれもシリコンダイオード温度センサを用いた。測定点には、
温度センサをネジでとめて上から銅テープで覆った銅板をコールドヘッドと光学
ベンチにしっかりとネジ止めした。
冷凍機コールドヘッド 光学ベンチ
図3 温度センサの取りつけ(銅テープで覆ってあるのがセンサ)
□ 結果
1、真空引きテスト
1回目(2002年5月19-20日) 18時間で4.9×10-3Torr まで引く。
ただし、真空ゲージを真空ポンプの口のところに
置いていたので、デュワーの中の本当の真空度が
わからない。いったん真空引きを停止。
デュワーの上部(スロート部)にも真空ゲージを
取りつけて再度真空引き開始。
2回目(2002年5月20日) 5時間で3.4×10-2Torr になってから
17時間待っても真空度は上がらず。
いったん真空引きを停止して、ヘリウム・リーク
テストのセットアップ。
3回目(2002年5月21-23日) 6時間で2.8×10-2Torr までいき、その後は21時間
たっても2.5×10-2Torr程度。
そのままリークテスト開始。
2、リークテスト
リークディテクタ周辺(V2)、真空ポンプの口周辺(V3/4)のリークチェックをした
あと、デュワーの上のほうから順番にリークをチェック(ヘリウムは上昇するから)。
直線導入器の根元部分のフランジに、他と比べてずっと大きなリークが見つかった。
リーク量は6×10-6std cc/sec。その部分はネジがゆるくなっていたので、
締め直したら、真空度が上がり始めた。
リークがあると思われる周辺を軽くテープで覆って、引き続きリークテストを
行ったが、他には目立ったリークはなかった。他の部分のリークレベルはおよそ
3×10-7std cc/sec 程度(これでリークなしと言って良いのかどうか
は不明だが、大きな漏れはないだろう)。
その後12時間ほどで8.3×10-3Torr まで真空度が上がったので
そのまま冷却テスト開始。
** コメント **
後でわかったが、ここで見つかったリーク箇所については、銅製のパッキングシール
がはいっており、そこをKerryが一度開けて同じシールを使って閉めたとのこと。
メタルシールは一度しか使えないので、それが原因ではないかと思われる。すぐに
新たなメタルシールを発注した。
3、冷却テスト
冷却開始から1時間で、冷凍機第一段の温度は40Kまで下がったが、光学ベンチは
ほとんど冷えなかった(24時間で2K程度)。
原因として考えられるのは、、、
1)ネジの緩みなどで冷却パスが浮いていて熱伝導ができていない。
2)ネジの緩みなどで温度計が浮いていて温度が測定できていない。
3)温度センサが低温でうまく動いていない。 ↓メモ3を参照
4)熱パスが貧弱。
あたりか? ひとまず、いったん冷却を中止。
デュワーを開けて、まずは冷却パスをとめたネジが緩んでいないか、温度センサを
とりつけたネジが緩んでいないかをチェック。手でとれない程にがっちりと止まって
いた(低温でどうなってたかはわからないけど)。
次に、温度センサが壊れていないことをチェック。センサをそのまま液体窒素に
つけて Lakeshore で正しく温度表示されるかを確認。問題なかった。
最後に、冷却パス(銅のストラップ)の一端を液体窒素にひたして放置して、もう
一端がどの程度冷えるかを見てみた。ら、全然冷えない!
液体窒素に浸した部分から 10cm くらい離れた部分を、冷やしはじめて1時間くらい
たってから手で触っても、ほとんど冷えていない。
今回の実験では、ラジエーションシールドがないため、銅ストラップは常温の壁を
見ていたが、熱伝導が輻射に負けていたのかもしれない。
ということで、「熱パスが貧弱すぎた」説が有力になってきた。光学ベンチを
冷やしてみるためには、熱パスを考えなおさないといけないかもしれない。
図4 冷却パスを液体窒素に浸してみた
□ メモ
1、真空引きを行う口がない!
現在、スロート部(口径50mm)と検出器デュワーの底面(口径25mm)しかなく、
スロート部にある口は、ゲートバルブを閉じるたときにカルッセル側の真空を
引くためのもの。検出器デュワーにある口は、検出器のテスト用で口径も小さい。
どこかに作らなければ!
2、厚い板に大きなネジで締めた部分は、真空を引いてもネジが緩むことは
ほとんどないが、小さなネジでとめた小さな部品(アクセスポートなど)は
かなり浮く。真空引き中にネジを締め直すと真空度がよくなることがある。
3、CIAOチームで最近、温度センサが低温でうまく動かないことが何度かあった
らしい。今回のうちの実験と同じ、「ダイオードセンサ + Lakeshore340」を
使ったときに、Lakeshore340 のコネクタAにいれた温度センサが、常温では
正常だったのに低温で表示がおかしくなったので、コネクタBにつないでみた
ら正しく表示できた、とのこと(未解決)。Lakeshore内のボードの問題?
4、今回の実験でわかったことは、「冷却パスは強力なものにしないと、思って
いたよりも熱伝導能力が全然足りないかもしれない」ということ。
特に、カルッセル部はラジエーションシールドをしないかもしれないので、
グラファイトパスで本当に熱伝導できるかどうか、早めに実験確認したほう
がよい。