狭帯域フィルタの仕様についての再検討

大内 + 東谷


2005年7月 3日
2005年7月11日更新  山田さんコメント追加


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結論(最終候補) MOIRCS/4視野x30hour/5σ

  z   cent(um)    f(Lya)    L(Lya)   SFR  BB_lim  NB_lim FWHM(A)  N(LAE)
 8.21   1.120     2.2e-18  1.8e+42   1.5   26.90   26.41   161    9.554
 8.78   1.1895    2.2e-18  2.1e+42   1.7   26.90   26.37   141    6.565
10.06   1.345     3.0e-18  3.9e+42   3.2   26.90   26.47   193    2.595
16.62   2.143     1.0e-18  4.2e+42   3.4   26.40   25.86   130    0.933

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このページの内容
   ・Scientific Goals
   ・MOIRCSの観測効率
   ・Lyaの観測可能性
   ・視野による波長のずれ補正
   ・見積もりと発注
   ・今後の戦略

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Scientific Goals (主目的3点)
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1. 宇宙の電離史における暗黒時代(z=6-17)を明らかにする

最近の観測結果から、宇宙の再電離に関する大きな問題が出てきました。
Gunn-Petersonテストからは、宇宙の再電離はz~6で終了したことが示されています
(Becker et al. 2001, Fan et al. 2002)。その一方で、WMAPによる
宇宙背景輻射の偏光観測から宇宙の再電離はz~17で起こったことが示唆されています。
この一見矛盾する2つの結果を巡って、z~17-6の間の時代に宇宙の電離がどのように
行われてきたかに関して大きな議論をよんでいます。
この問題に答えるためにはz~6-17の間の宇宙の電離度を測ることが急務ですが、
そのためには天体(銀河もしくはQSOなど)を見つけ出し、そのスペクトルにある
銀河間ガスの吸収の痕跡を調べる必要があります。

z=Xの銀河を検出して、そのLyaの吸収度からz~Xの宇宙の電離度に
制限を与えことを考えます。アプローチは2通り。
 i)LAEのLya光度関数の進化
   Malhotra & Rhoads 2004の論文が参考になります。
  要は、z=6.6 LAEのLya光度関数とz=Xのものを比べてどのくらい
  形が変わったかを見るという作業になります。

 ii)理論モデルとの比
   同じようにz=XのLAEのLya光度関数を使うのですが、SPHなどの
   モデルと合わせることで、電離度f_IGM,エスケープフラクションf_esc,
    ダスト吸収tau_dastの積 (1-f_esc)*f_IGM*exp(-tau_dust)
    に制限を加えます。


2. 大質量銀河の形成初期を探る

楕円銀河のような大質量銀河がどのように形成されたかを探ることは
銀河形成全体を明らかにする上で大変重要です。最近の観測によれば、
かなりの割合の大質量銀河はz~2で大部分の星形成を終え
passive evolutionを始めているようです(Cimatti et al. 2004, 
Daddi et al. 2004, Glazebrook et al. 2004)。CDMに代表される
階層的構造形成では、小さな構造が先に作られ時間と共に大きな構造に
なっていくことが予言されています。大質量銀河はz>2という早い段階で進化を
終えていることを考えると、これらの銀河の進化はCDMの振る舞いと
逆センスです。そのため、銀河のdown-sizingなどと呼ばれて大きな話題になっています。

仮にこのdown-sizingが正しいとすると、大質量銀河の星形成は
かなり早い時代(z~5かそれ以上)に行われたと考えられます。このような早い時代を
探らなければ、楕円銀河のような銀河のmajor formationを観測的に明らかにできません。

そこで、GOODS-Nのnarrow-band探査によってz=Xの宇宙(3x10^4 Mpc3)を探査
します。検出されたLAEの星質量をSpitzer/IRACの中間赤外線データとSEDモデルを使って
見積もりz=Xで最も質量の大きい銀河を見つけることで、大質量銀河の形成進化に制限を
与えます。

近傍宇宙では探査体積(3x10^4 Mpc3)に数個の早期型銀河があることから、
見つかったLAEの中に楕円銀河の祖先があるかもしれません。(楕円銀河の祖先が
Lya輝線を出して星形成を行っている場合ですが。)

この研究で問題になるのはGOODS-NのSpitzer/IRACの検出限界です。
IRACデータでどのくらいの星質量の銀河まで検出できるかと言うと、おおよそ

z   stellar_mass(Mo)
 7  9.46237e+09
 8  1.13763e+10
 9  1.34276e+10
10  1.55597e+10
12  1.99526e+10
14  2.44343e+10
16  2.88403e+10

(4um=25ABmag, z=3 LBGのSEDを仮定した場合)
となって、z=7-16の範囲で大体1x10^10Moくらいまでは検出できることになります。

次に問題になるのは、原理的にこんな大きな天体がこんなhigh-zにあるかどうか
ということです。ダークマターの質量関数(press-schechter関数)を
http://www-int.stsci.edu/~ouchi/work/tokoku/20050529/massfunc_evol_MOIRCSNB.pdf
におきました。
(この図は、各zでどのくらいの質量のダークマターの塊ができるかをCDMモデルで
予想したものです。)実線はそれぞれ、右側からz=0,6,10,16の関数です。点線は
MOIRCS4視野(FWHM=200A)の場合の探査体積の逆数です。この図からz~10くらいまで
なら探査体積の中に1つ >1x10^11Mo 程度のダークマターの塊があることが分かります。
ダークマターとバリオンの比は大体10:1なので、1x10^11Mo のダークマターの塊の中には
 1x10^11/10= 1x10^10Mo 程度のバリオンがあることになります。バリオンの全てが星に
なっている場合の星質量は 1x10^10 となります。

したがって、1x10^11 のダークマターの塊が見つかるz~10かそれ以下の時代(z<10)の
宇宙にある銀河しかSpitzer/IRACでは検出できません。逆に言うと、このサイエンスを
やるためにはz<~10の銀河が限界ということになります。

3. 遠方銀河のフロンティアz>7に拡大させる
これまで観測で見つかっている銀河はz~7なのでそれより早い時代に天体があったか
どうか明らかでない。それを知るためz>7の時代の銀河を発見して遠方銀河の
フロンティアを広げる。(これに関してサイエンティフィックな詳細の説明は
ほとんど必要ないでしょうね。) z=6.6 LAEの論文(Kodaira et al. 2003)や
z-dropoutの論文(Bouwens et al. 2004)、z=10銀河候補の論文Pello et al. (2004)
などを引き合いに出して説明すれば十分だと思います。

これら3つのサイエンスの他にz=1-3のHa,[OIII],Hb,[OII] emitterの研究ができるでしょう。
中間赤方偏移のemitterを元にこの時代の星形成率をより精密に測ったりできます。
また、この時代は銀河を見つけること自体難しい赤方偏移(redshift desert)なので
その時代の銀河を見つけサンプルを増やすことにも意義があります。
(さらに、Shimasaku et al.でGOODS-NでSuprime-Cam NB921の観測が行われようとしています。
 これにより見つかったz=6.6 LAEがPopIIIかどうか調べることにもMOIRCSのnarrow-bandデータが
 役にたつかもしれません。z=6.6 LAEのHeII輝線(1640A)の有無を見ることに使えます。仮に
 1.245umの波長域がMOIRCSのnarrow-bandに選ばれた場合はこの研究が実現できます。)



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MOIRCS の観測効率
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宇宙論は現実的な、H=70km/s/Mpc, omega_m=0.3, omega_lambda=0.7
を使った方がいいと思います。(WMAPのおかげでこの数値を疑うことが難しく、
実際の宇宙を反映していると考えられるからです。)

Sky backgroundのスペクトルを使って見積もりの精度を上げてみました。結果は、

  z   lambda  f_lim  L_lim   SFR BB_lim NB_lim FWHM gain(sky)
 7.76 1.065 2.3e-18 1.7e+42  1.4 26.90 26.22   153  0.71
 8.17 1.115 2.5e-18 2.0e+42  1.6 26.90 26.29   160  0.76
 8.75 1.185 2.6e-18 2.5e+42  2.0 26.90 26.37   170  0.81
 9.24 1.245 4.6e-18 4.9e+42  4.0 26.90 25.98   179  0.39
10.06 1.345 2.4e-18 3.1e+42  2.5 26.90 26.64   193  1.01
16.15 2.085 3.5e-18 1.3e+43 10.7 26.40 25.24   231  0.31
16.64 2.145 5.4e-18 2.2e+43 17.8 26.40 24.69   231 -0.23
17.79 2.285 2.9e-18 1.4e+43 11.3 26.40 25.52   231  0.60
16.45 2.122 4.9e-18 1.9e+43 15.7 26.40 24.72   210 -0.16 --- H2 filter
17.93 2.302 2.7e-18 1.3e+43 10.6 26.40 25.59   231  0.67  ---  Taniguchi filter

です。SFRまでは前回と同じ単位系です。(東谷さんのwebと同じ単位)
この結果は30時間積分、5σ検出(aperture diameter=0".7)です。
- BB_limは仮定したbroad-bandのmagnitude, 
- NB_limは計算して出したnarrow-bandの限界等級、
- FWHMはnarrow-bandのFWHM。(ここで、z=6.6 LAEサーチ(Kodaira et al. 2004)と
  同じrest frame EWまで取れるように設定してある。)
- gain(sky)は、J-band, K-bandの平均的なbackgroundと比べてbackgroundが
 低い分得られる限界等級のゲイン(単位は等級)。数が大きいほどその夜光
  の谷間が有利であることを意味する。(上述のようにnarrow-bandのEWは、
  サイエンスの都合だけで夜光輝線のことを考慮していない。このため、FWHMを
  もっとうまく取ることでgainを増加させることが可能)

この見積もりにはまだ大気吸収の効果が入っていませんが、lambda=1.345 のところの
結果を除いて、ファクター1.5以下の精度は出ているような気がします。30時間、5σ
として東谷さんの結果と比べるとやはりファクターからオーダー、私の値の方が深く
いっているようです。
一応チェックのため、すばるのwebにあるCISCOのH2 filter 1時間 5σ
(aparture diameter=1")の結果が再現できるか計算したところ
0.08 mag差で一致していました。CISCOとMOIRCSの限界等級が大体等しい 
)カセグレン/ナスミスの効果ーMOIRCSのlow throughput=0)と考えれば
良い線いっているような気がします。

そういうことで、東谷さんの見積もりはちょっとペシミスティックかもしれません。
もしかしたら私の使ったaparture sizeが小さすぎかもしれません。(ISSACの
結果などから、たぶん0".7apartureでいけると思うのですが。)

仮に私の見積もりが正しかったとして以下話をします。

NB探査にはそれより1等級程度深いbroad-bandがある領域が求められます。
(BB-NB>~1の条件をLAE selectionに課すためです。)その意味では、探査領域は
MOIRCSで行うGOODS-Nが適当かもしれません。仮にそうするとMOIRCS4視野の
broad-bandデータがすでに得られていることになります(NB探査で取り足さないで
済むというメリットがあります)

NB探査は8m望遠鏡の限界まで行くということでMOIRCS30時間
とすると4視野で計120時間、Intensive(<20夜)で
いける範囲です。

これでLAEが検出できるかどうかですが、z<~10に関しては
いい線いくと思います。無進化(z=5.7, 6.6のLAEの光度関数)を仮定すると
MOIRCS4視野(~100平方分)、検出限界L(Lya)> 2-3e42 で5-2個の検出が見込めます。
一方で、z>~16は、検出限界がL(Lya)>1-2e43なので0個となります。
大体、4視野だとL(Lya)~5e42より深く行かないとLAEの検出は見込めないかもしれません。
(ただし、FWHMの取り方や探査面積v.s.深さの取りかたによってうまくいく可能性も
あるのでz>16が完全に無理かどうかまだわからないと思います。)

      > 一般領域では連続光が深くないと
      > NB 探査もなかなかままならず、可視と比べると、(夜光輝線のため)
      > これが極端に難しくなっている訳ですよね。
      > 戦略のとして、どう並行させるか、NB と BB につぎ込む時間の比
      > としてどこが最適か?

      > Hα銀河の進化は、最近、いくつかのグループの NB 探査
      > が進んできて、基本的に Tresse et al. が示したような
      > z~1 にかけての大きな進化は確認されつつあるようです。
      > (Gallego et al., de Propolis et al.)
      > これは同時に、相当の foreground 天体に Lyα天体がうもれる
      > ことを意味しており、これを区別するにはやはり相当に
      > 連続光が可視でも赤外でも深くないといけないとおもいますが、
      > どのあたりに最適なバランスがあるのか?

   > 実際の提案はともかくとして、押さえておくべきだとおもいました。

これに関しては、大雑把に言って積分時間の比は
だいたい broad-band : narrow-band = 1:1
にするのが適当だと思われます。(ファクターの精度で)

理由は次のようになります。
BBをNBと同じ時間積分するとS/Nは透過幅の比(およそ1/10)のsqrtで限界等級が
良くなります。すると2.5 log(sqrt(10))=1.25 magだけBBの方が深くなります。
ただ、NBは夜光輝線の谷間に取っているためBBの平均的なbackgroundより低い
です。このため、波長域にもよりますがだいたい0.5-1.0magだけNBの限界等級が
深くなります。その効果を合わせるとBBの限界等級はNBに比べて
1.25mag - [0.5~1.0] mag = 約0.5 mag
だけ深いくことになります。

LAEの検出にはカラーの条件NB-BB>~1.0 magを課す必要があるため、
BBは少なくとも1mag程度はNBより深くなくてはなりません。

NBで5σの検出天体までサイエンスに使うとした場合を考えます。
BBの方は5σと言わず2―3σまで使ってカラーを計算するとしたら

NBの5σ限界 ― BBの2―3σ限界 
= 約0.5mag + (0.6-1.0)mag
~ 1.3

これによってNB-BB>~1.0という条件を課すことが可能になります。

SuprimeのNB観測ではこのような論理から、NBとBBの積分時間をほぼ同じになる
ように観測をデザインしました。得られたデータと解析の結果からこの方針が
だいたい正しいことを確認しています。(一方でAjiki et al. 2002ではNB816を
BBの数倍もかけて積分しているため、NB816 を5σまで検出に使うことができずに
NB816=25magという〜10σレベルまでのLAEしか研究できていません。事ある毎に、
LAEの研究にはBBはNBと同程度の積分時間が必要と主張しているのですが、
固定観念からNBを深くしすぎる観測者が多いです。)

     > 検出限界はフレームの枚数や、足し合わせたときの(ポアソン)誤差の
       伝搬もいれていますか?

全て込みこみです。ISSACでやったFIRESの結果(broad band30時間)と合うように
規格化しました。



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Lyaの観測可能性
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(大気の吸収およびsky backgroundの両方の影響が少なくなるよう波長と幅を
微調整しました。)

見積もりの最終値は、

  z   cent(nm) FWHM(nm) f(Lya) L(Lya)  SFR Vol(Mpc3) N(LAE)
 7.73 1062     15.2    1.9e-18 1.4e+42 1.1 2.82e+04    14.1
 8.20 1119     16.1    2.2e-18 1.8e+42 1.5 2.85e+04     9.0
 8.75 1185     17.0    2.6e-18 2.5e+42 2.0 2.85e+04     5.7  ←東谷フィルター
 9.24 1245     17.9    4.5e-18 4.8e+42 4.0 2.86e+04     1.8
10.05 1344     19.3    3.0e-18 3.9e+42 3.2 2.86e+04     2.9
16.17 2087     20.0    3.2e-18 1.2e+43 9.9 1.85e+04    0.07
16.58 2138     20.0    2.3e-18 9.4e+42 7.6 1.80e+04    0.18
17.81 2287     20.0    2.3e-18 1.1e+43 8.8 1.67e+04    0.11

c.f.)
16.45 2122     21.0    4.8e-18 1.9e+43 15.6 1.91e+04   0.008 ←H2フィルター
17.93 2302     23.1    2.7e-18 1.3e+43 10.6 1.91e+04   0.060 ←谷口フィルター

ここで、cent(nm), FWHM(nm)がnm単位でのフィルターの中心波長
およびFWHMです。

一番右の列のN(LAE)が30時間4視野で期待される
LAEの個数です。個数の見積もりにはz=6.5LAEの光度関数から無進化だった場合を
仮定しています。(この仮定が正しいかどうか誰にも分かりませんが、とりあえずは
目安になります。)

まず見て分かることはz>16以上のLAEを狙うフィルーターはN(LAE)が1に満たず 
リスクが大きいようです。もちろん、z=6.5LAEに比べてz~16で非常に明るいLAEが
多数あった場合はこの限りではありません。したがって、様子見ということで
z>16で最も成績の良いフィルター z=16.58 を候補として残しておいた方がいいと
思います。

東谷フィルターはなかなかいい線いっていると思います。FWHMを10nmにするか
ここにあるように17nmにするかはさらに検討する余地があります。

z=10.05フィルターもredshiftの割にはよさそうです。z=9.24と比べても
検出個数で見劣りしません。難点は、このフィルターが
JとHの間の波長域にあるため、off-bandをどうするか(J+Hで代用するかなど)
考えなくてはなりません。


z=7.73もなかなかですが、redshiftが小さくややインパクトに欠けるので
そんなに魅力的ではありません。(プロポーザルを出したとき
z=6.5とz=7.73でどのくらい違うの?と言われる恐れもあります。)

そんな訳で、見積もりをとっておくと良いと思われるのは

 z    cent(nm) FWHM(nm)
 8.20 1119     16.1    2.2e-18 1.8e+42 1.5 2.85e+04    9.0
 8.75 1185     17.0    2.6e-18 2.5e+42 2.0 2.85e+04    5.7  ←東谷フィルター
10.05 1344     19.3    3.0e-18 3.9e+42 3.2 2.86e+04    2.9
16.58 2138     20.0    2.3e-18 9.4e+42 7.6 1.80e+04    0.18

FWHMに関しても調べてみました。中心波長はそのままにして
FWHMを変えた時に検出されるLAEの個数(期待値)が
どのように変化するかプロットしました。

#J-band域のフィルターについて
http://www-int.stsci.edu/~ouchi/work/tokoku/20050628/fwhm_nlae1.pdf

#K-band域のフィルターについて
http://www-int.stsci.edu/~ouchi/work/tokoku/20050628/fwhm_nlae2.pdf

縦軸がLAEの検出個数(30時間4視野の場合)
横軸がFWHM (単位はA)
です。

目安のために、それぞれの線の上には
rest-frameで17.5 AのLAEまで検出できる
フィルターの幅を「+印」や「×印」などで
プロットしてあります。以下、このFWHMの事を
特に「保守的なFWHM」と呼びます。

#ちなみにこのrest-frame 17.5Aというのは
#SDFでz=6.5 LAEの検出に使ったNBフィルターで
#検出できる限界です。逆に言うと、この印と同じFWHM
#もしくはこれよりFWHMが小さいと
#z=6.5LAEと同じ条件でLAEを検出できます。これよりFWHMが大きくなると
#equivalent widthが大きいLAEしか受からなくなるため、
#実際には上の図で示されているより期待値は小さいはずです。

・J-band域のフィルターに関して

全般的にはFWHMが大きければ大きいほど
検出個数が増えます。しかし、「保守的なFWHM」よりFWHMの値が大きくなると
equivalent widthが大きいLAEしか検出されないため、実際には曲線で示した
ものより個数が少ない恐れもあります。逆にFWHMの小さいものは期待される
個数が減ります。したがって、J-band域のフィルターに関しては「保守的なFWHM」
を採用するといいと思います。

例の東谷フィルター (波長 1.185um)の曲線を見ると、
FWHMが100Aでも170Aでも検出個数が6個くらいで
どちらでもあまり変らないと予想されます。

(ただ、100Aのフィルターは170Aと比べて探査体積が約半分(1/1.7)なので
field-to-field varianceをより強く受けて、LAEが全然検出されない
危険性が増します。)


・K-band域のフィルターについて
図を見てもわかるようにFWHMを変えても
検出個数が1を越えるものはありません。

ただ、唯一見込みがありそうなのは例の波長2.138umのフィルターだけです。
波長幅を80Aくらいに設定すれば検出個数〜1を実現できると思います。
(このフィルターに関しては中心波長を少しずらしてさらにS/Nをあげる余地も
残されています。)ちなみにこのフィルターの「保守的なFWHM」は300A
くらいなので、それと比べると80Aというのは非常に幅が狭いです。これで
うまくいくかどうかは分かりませんが、見積もりを出しておくにはよさそうですね。

以上をまとめるとJ-band域のフィルターに関しては「保守的なFWHM」を
K-bandのフィルター(波長2.138um)に関しては80Aとして

z    cent(nm) FWHM(nm) 
8.20  1119    16.1    
8.75  1185    17.0    
10.05 1344    19.3   
16.58 2138     8.0

の4つに関して見積もりを取ると良いのではないでしょうか?

#A,nm,umと単位がいろいろ変ってしまってすまない。

参考までにこの領域でのsky background, transmissionおよび
NBフィルター候補は
http://www-int.stsci.edu/~ouchi/work/tokoku/20050628/spec1.pdf
http://www-int.stsci.edu/~ouchi/work/tokoku/20050628/spec2.pdf

にまとめてプロットしてあります。(時間がなかったのでごちゃごちゃした
図のままですが。)



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視野による波長のずれの補正
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視野端で波長がずれることを考慮すると、場所によって下に書いた分だけ
波長が短い方にずれます。
dλは、一つ目が各検出器の中心、二つ目が視野端です。
カセグレン中心に波長中心がきた場合で、屈折率=1.4を仮定。
視野端ほのうは角度が複雑なのでざっと計算しただけです。

少し幅を狭くしておいて、ずれても夜光をかぶらない
ようにしたほうがいいかもしれません。

カセグレンの中心にλ0がきた場合
λ[um] dλ[A] dλ[A]
1.119    19    86-101
1.185    20    91-107
1.344    23    104-121
2.1415   37    165-194


Suprimeの時も同じようなことがあって、フィルターに対する入射光の角度が
きつく(たしか30度程度)、平行光に比べて透過波長が数十A短くなって
しまいました。したがって、(平行光の場合の値としての)フィルターの
中心波長は変化する波長分だけ下駄をはかせて発注していました。
MOIRCSでも状況は同じようですね。
(ただ、視野中での波長のズレの違いはMOIRCSのように大きくは無かったです。
せいぜい10-20Aでした。MOIRCSの場合J-bandで40A程度、K-bandで70A程度
です。詳しくは以下の議論と表を見てください。)

λ     dλ(cent)   ~dλ(edge)  dλ(edge) dλ(typical) δ(dλ)
1.119    19       86-101     93.5      56          ±37 
1.185    20       91-107     99.0      60          ±40 
1.344    23       104-121   112.5      68          ±45 
2.1415   37       165-194   179.5     108          ±71 

1-3列目の情報は東谷さんの教えてくれたものと同じです。
ここで、
dλ(typical)=[dλ(edge)+dλ(cent)]/2 
δ(dλ)=dλ(typical)-dλ(cent)もしくは δ(dλ)=dλ(edge)-dλ(typical)
です。

言葉で言うと、
4列目  dλ(edge):   視野端での典型的な波長のズレ
                     (単に東谷さんのくれた値の平均をとったもの)
5列目 dλ(typical): 視野全体でみたときの典型的な波長のズレの量。
                     「視野中心のdλ」と「視野端のdλ」の平均
6列目 δ(dλ):    典型的な波長のズレ(5列目の値)を基準に考えた場合、
                      視野中心および視野端での波長のズレ量
         
とりあえず、dλ(typical)をフィルター発注時に下駄として履かせて注文すると
考えます。これで全体的な波長のズレは補正できることになります。

次に問題になるのが視野端と視野中心を比べた時の波長の違いです。これはδ(dλ)で
示されていますが、J-band域で40A程度、K-band域で70A程度となっています。

このδ(dλ)をもとに、検出器の位置によってどのくらい検出効率が変わるか
調べてみました。さらに、FWHMを小さく取ることで視野中心や視野端で
夜光輝線を食らわないように調整してみました。

手動でいじっていろいろテストしてみました。その結果、ベストだと思われる中心波長と
FWHMは次のようになりました。

#the improved  version
  z   cent(nm)      f(Lya) L(Lya)   SFR BB_lim NB_lim FWHM(A) N(LAE) to 視野中心/視野端
 8.20 1.119(+56A)  2.2e-18 1.8e+42  1.5 26.90 26.41   161     9.642  to  7.478/7.734 
 8.75 1.185(+60A)  2.6e-18 2.5e+42  2.0 26.90 26.38   170     6.084  to  6.132/6.278 
10.09 1.348(+68A)  3.1e-18 4.1e+42  3.3 26.90 26.45   193     2.409  to  2.661/2.944 
16.60 2.140(+108A) 1.1e-18 4.2e+42  3.5 26.40 25.84   130     0.911  to  0.105/0.002 

#ここで2列目の(+XXA)というのは、
#波長 XX Aだけ下駄を履かせた値(足した値)で
#発注するという意味です。例えばz~8.2のフィルターの
#場合は、
#1.1190um + 56A = 1.1246um
#なので、平行光を入れた場合の波長中心が
#1.1246umのフィルターとして注文することになります。


このように中心波長とFWHMを選んだ理由を簡単に述べます。

z~8.2フィルターは太いFWHMのままだと視野端および中心で
夜光輝線を食ってしまうのですが、検出個数は7個以上になります。
一方で、FWHMを160Aから100Aに減らすと波長端から中心まで
夜光輝線が入りません。ただし、この場合の検出個数は6個台と
少なくなってしまいます。(これは、夜光輝線でS/Nを得しても
FWHMが狭くなったためにS/Nが悪くなる効果と探査体積が減った理由で
合計すると損をしてしまうためです。)

       > 体積が減るデメリットはその通りだと思いますが、
       > S/N が悪くなるのは NB の検出限界であって、輝線に対する感度
       > ではないのでは?

1.19umのフィルターで言えば、FWHM=100Aの場合を141A(←ベスト値)の
場合と比べるとNBの検出限界は約0.2mag浅くなりますが、Lyaの輝線強度
は約1.2倍深くまでいけます。z=6.5 LFを仮定(無進化)した場合の検出
の期待値は後者の方が1個上回わる程度でエラーの範囲です。
どちらがいいかはかなり微妙なところなのですが、技術的課題(FWHMがより
狭い)とfield varianceのことを考えると後者の方がいいかと思われます。

したがって、FWHMを160Aに保っておいた方が結果的に得だと考えました。
z~8.75フィルターの選択理由もこれと同様です。

z~10フィルターに関してもやはりFWHMを減らすと損します。
ただ、中心波長を少し長波長側にずらすと視野中心(および視野端)で
夜光が入らなくなります。そのため中心波長を少しだけ長波長側にずらしました。

z~17フィルターは左右に極めて強い夜光があってにっちもさっちもいきませんでした。
と言っても、FWHMを減らすと減らした途端に検出の期待値がオーダーで減ってしまいます。
そこでFWHMは変えずに波長を少しだけ微調整することで最もひどい夜光(長波長側にある)
がなるべく入らないようにしました。


もあくすの場合、視野が二つに分かれているので、カセグレン中心(=視野中心)と
フィルタの中心は違います。私のだした数字は、「視野中心=フィルタの一端」に
中心波長をもっていったときの「フィルタの中心=検出器中心」と「視野端=フィルタの角」
という意味でした。光軸中心は検出器中心を通るので、そこからみてカセグレン中心付近
(検出器中央寄りの端)では4.7°、視野端(検出器反対側の角)では7.1°、程度入射角が
ズレることになります。カセ中央に入った波長を基準にすると、検出器中央・視野端に
入る波長はそのくらいずれることになると思います。



誤解していました。なるほど、視野中心では平行光なので規格通りになって、
そこから「検出器中心」、「視野端」と徐々に視野の端へ行くにつれて
ズレが大きくなるのですね。

そうすると、2.1umのフィルターの場合は「検出器中心」でさえ40A、
「視野端」にいったら180Aくらいも違うのですか。これは大変ですね。
このことを受けてもう一度同じ作業をやり直しました。


これが本当の最終値になると思います。

  z   cent(nm) f(Lya)  L(Lya)   SFR BB_lim NB_lim FWHM(A)    N(LAE) (det_cent,edge) 
8.21 1.120     2.2e-18 1.8e+42  1.5 26.90 26.41   161        9.554  (9.731,6.775) 
8.78 1.1895    2.2e-18 2.1e+42  1.7 26.90 26.37   141        6.565  (6.854,5.606) 
10.06 1.345     3.0e-18 3.9e+42  3.2 26.90 26.47   193        2.595  (2.694,1.632) 
16.62 2.143     1.0e-18 4.2e+42  3.4 26.40 25.86   130        0.933  (0.265,0.015) 

#中心波長に加えてFWHMを狭めたものもあります。


出来上がったフィルターの中心波長は+/- 10〜20A程度ズレる(誤差が出る)と思われますので
設計値は前回の中心波長の値より10Aくらい短い波長に設定すると安全かもしれません。
(実際のところどのくらいの精度が出るのでしょか?見積もりの段階で中心波長と波長幅の
精度がどのくらい出るか問い合わせておくといいと思います。フィルター一つ作るのに
相当の時間がかかりますよね。もし完成したフィルターが予想以上に中心波長がずれていた場合
本当は作り直してもらえば良いのですが、今回はそういう時間的余裕が無いですよね。)



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見積もりと発注
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見積もり依頼値

We are looking for narrow-band pass filters in the
near-infrared wavelength range which will be used
for astronomy research at the Subaru Telescope in
Maunakea, Hawaii.
Would you like to make a quotation for four(4) kinds
of filters with specifications listed below?

1. We are not sure about substrate material selection.
   Would you like to give us some comments or suggestions
   for best coating and operation?
2. If only a few specifications of substrate make a quote expensive,
   would you like to give us some suggestions for better solutions.
3. How accuracy are possible for center wavelengths and bandwidths?

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Near-infrared Narrow Band Filters

[Common Specification]

* Physical dimension     80mm diameter
* Clear aparture         70mm diameter (minimum)
* Thickness              8mm
* Substrate flatness     < Labmda/4
* Substrate parallelism  < 10 arcsec
* Operating temperature  > 77K
* Operationg range       0.80-2.5 micron
* Peak transmission      > 50% (goal > 60%)
* Cut-on tolerance       ± 0.002 micron
* Cut-off tolerance      ± 0.002 micron
* Roll-off tolerance     Rise from 10-90% peak transmission
                         in < 0.005 micron
* Quantity               2 each
* Free of pinhole defects.

[Filter_NB112]
* Center Wavelength      1.119 micron
* Bandwidth(FWHM)        161 Angstrom
* Transmittance          < 1E-4  0.8-1.1 micron
                         < 1E-4  1.2-2.5 micron
* Substrate material     BK7

[Filter_NB119]
* Center Wavelength      1.1885 micron
* Bandwidth(FWHM)        141 Angstrom
* Transmittance          < 1E-4  0.8-1.1 micron
                         < 1E-4  1.2-2.5 micron
* Substrate material     BK7

[Filter_NB134]
* Center Wavelength      1.344 micron
* Bandwidth(FWHM)        193 Angstrom
* Transmittance          < 1E-4  0.8-1.3 micron
                         < 1E-4  1.4-2.5 micron
* Substrate material     BK7

[Filter_NB214]
* Center Wavelength      2.142 micron
* Bandwidth(FWHM)        130 Angstrom
* Transmittance          < 1E-4  0.8-2.1 micron
                         < 1E-4  2.2-2.5 micron
* Substrate material     Fused-silica

・フィルタ寸法については、鈴木くんと相談のうえ、現状のBBフィルタの
  問題点等も踏まえて一部変更しました。
  (ターレットで隣合うスロットに入るよう丸型にした等。)
・帯域の精度指定については、マウナケア・コンソーシアムに基づいて指定
  しましたが、基板の平行性・フラット性については、良すぎるとフリンジ、
  悪すぎるとゴースト、というこれまでの観測結果に基づき、狭帯域フィルタ
  については夜光の影響は少ないともくろんで良い方を指定しました。

見積もり依頼先:
・Barr
・JDSU (旧OCSI)
・朝日分光
・トプコン



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今後の戦略
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このプロジェクトで一番の難関が、すばるの時間を獲得するところだと思います。
Suprimeの時はNB filterは作ったけどすばるの時間がもらえず2年近く待たされた
ものや、お蔵入りしたNB filterもありました。そういう苦い経験もあるので、
いかにしてすばるの時間をもらうかということを視野に入れて慎重に予定を立てて
いけたらと思います。

まず、フィルターの見積もりから発注まで最短でどのくらいかかりますか?
また発注しても完成まで8ヶ月はかかりますよね。すると仮に7月末までに発注しても
完成は3月となりますね。GOODS-Nにはギリギリです。以下スケジュールのたたき台です。

7月末 フィルター発注

10月 すばるプロポーザル締め切り

1月  すばるインテンシブプログラム口頭審査

3月  フィルター完成

4月ー6月 観測

自分で言うのもなんですが、とらぬ狸の皮算用といったところです。

10月締め切りのすばるプロポーザルには「フィルター作成中」と書いて
出しておきましょう。1月の口頭審査では、完成間近のフィルターサンプルの
測定値をしめして「フィルターはほぼ予定通りに完成して納品を待つのみ」
として説明したいところです。

正直なところフィルターが完成していないばかりでなくフィルターをすばるに
付けて試験していないため来春の観測時間はまず与えられないと予想されます。

それにも関わらずプロポーザルは出すべきだと思います。これは例の
谷口フィルター対策です。NBのプロジェクトはかなりの観測時間をとるため、
当初の2年間くらいは谷口フィルターか東谷フィルターかのどちらかにしか
時間を与えられないと予想されます。
(すばるには類似プロジェクトを平行して進めるだけの望遠鏡時間が無いため。)

すばるへ言い出すのが遅くなると周囲から2番煎じと見られるようになり、
谷口プロジェクトだけが通るという可能性が高くなってしまいます。それを封じる
ためにも次回のプロポーザルに(無理をしてでも)申請しておく必要があると
思います。

     > Lyα探査で言うと、1.19 um の窓から始めるのがベストだと僕は考えます。
     > (一方、Hαの探査では、2um 帯の方が急務ではあるというファクタも
     >  ありますが・・・)

Haだけでなくz~18のLAEも検出の可能性がある訳ですので、イチかバチか
very high-z LAEをやってみるというプロポーザルが出てきてもおかしくないです。
そういう意味で意識すべき事柄だと思っています。



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Link
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http://www.barrassociates.com/
ISSAC@VLT NB Filter Secifications